フランと魚すくい

「もぐもぐ」

『美味しいか？』

「ん！」

　旅の途中で立ち寄った、とある町。ここでは魚の養殖が盛んであるらしい。魚のサイズはちょっと大きめの金魚くらいだが、食用に育てているものは泥臭さもなく、かなり美味しいのだ。

　そのため、街中では様々な魚料理を楽しむことができた。煮物に唐揚げに焼き物。スープに粥にサンドイッチ。ありとあらゆる料理に、その小魚が使われている。

　見つけた屋台全てに立ち寄るうえ、美味しそうな食堂などでいちいちお勧めの料理を頼むので、町に入ってから三時間も経つのに全然進んでいなかった。急ぐ旅じゃないからいいんだけどさ。このままだと、町を抜けるのに数日くらいかかるんじゃないか？。

　俺が今日の宿の心配をしていると、横合いからフランに声がかかる。

「お嬢さん、魚すくいをやらんかね？」

「魚救い？」

　いま、ニュアンス違くなかった？　救いじゃなくて、掬いね。おじさんの前の大きな水槽を覗き込むと、その中にはたくさんの魚が泳いでいた。こちらの世界でも金魚すくいがあるんだな。

「これを使うのさ」

　おじさんが取り出したのは、小麦を焼いて作ったお玉のような道具だ。モナカにそっくりである。

「お嬢ちゃん！　この小麦焼きを使って、捕えられた可哀そうなお魚さんたちを救ってやってくれ！」

　本当に魚救いだったんかい！　多分、子供をその気にさせるための常套句なんだろうな。

　だが、フランは冷静だった。

「？　救いたいなら、自分で救わないの？」

「えーっと、おじさんは呪いで、魚を救えない体にされているんだよ！」

「呪い？　じゃあ、解いてあげる」

「え？」

　フランが、解呪の回復魔術を使用した。おじさんの体が光り輝くが、変化はない。まあ、当然だが。

「呪い解けてる？」

「い、いやー、解けてないみたいだ。そ、それよりも、魚を救わないかい？　一回一〇ゴルドだよ？」

「救ってほしいのにお金とる？　それに、もっとちゃんとした道具の方がいいよ？」

「あー、そのー」

　おじさん。冗談が通じないフランに声をかけたのが、運の尽きだったな。

『フラン。おじさんが言ってるのは、お話というか、盛り上げるための作り話なんだよ』

（？　嘘ついた？）

『嘘というか、そういうもんなんだ。あまり気にすんな。それよりも、魚すくいやってみようぜ。な？』

「わかった。一回やる」

「お、おお？　そうかい？」

「ん」

　フランはモナカを受け取り、じゃぶんと水槽に突っ込んだ。手近にいた魚を掬おうとして――。

「ん？」

『そりゃ、そんだけ力いっぱい動かせばな』

「お嬢ちゃん。もっと優しく動かさないとダメだよ」

「もう一回」

「はいよ」

　今度は言われた通りゆっくりと動かしたが、魚を追う前に崩れてしまう。ゆっくり過ぎたのだ。

「むー。もう一回！」

　その後フランはひたすら挑戦し続けた。途中からおじさんの顔が引きつってたよ。多分、三〇回はチャレンジしたのではなかろうか？　すると、さすがフランだ。あっという間にモナカの扱いが上達し、次々と魚を掬えるようになっていた。

　もうモナカ一個で一〇匹くらいいけちゃってるんじゃないか？　おじさんが焦っているのが分かる。

「そ、そんなにとって大丈夫なのかい？　飼うのは大変だよ？」

「食べるからへいき」

「た、食べちゃうのは可哀そうじゃない？」

「じゃくにくきょうしょく。食べられるものは食べる」

「お、おう。そうなんだ。は、はは……」

「ん。こつ掴めてきた。次はもっとすくう」

　フランがそう宣言して、モナカを投入した直後であった。

「む？」

『今の何だ？』

　一匹の魚が急に凄まじい勢いで泳いだかと思うと、モナカに体当たりをして破壊していた。明らかに不自然な動きである。まあ、俺には何が起きたか分かってるけど。

『このおっさん、動物使いだ。テイムスキルを持ってるぞ』

（じゃあ、ズルしてる？）

『今のはズルって言えるだろうな』

　その後、フランは何度か挑戦したんだが、結局一回も成功することはなかった。魚に攻撃され、すぐにモナカが割れてしまうのだ。フランがちょっとイラっとしているのが分かる。

「ふはははは！　お魚もお嬢ちゃんにすくわれたくないってよ！　もう諦めたらどうだい？」

　おじさん。それは悪手よ？　やめてほしいなら、口でそう言えばいいのに。フランの負けず嫌いが発動してしまった。しかも、バレなければスキルを使ってもいいという認識も持ってしまったのだ。

「次こそはとる」

「無理だと思うけど――ええ？　な、なんで！」

「ふふん。とった」

　とったというか、捕まえた？　魚をスキルで威圧して身動きできなくして、モナカに魔力を流し込んで強化して掬い上げたのだ。メチャクチャズルいんだが、おじさんが先に仕掛けてきたわけだしな。

「な、何をした！」

「？　何もしてない」

「嘘をつくな！」

「私が魚すくうの超うまくなっただけ」

　そう言いながら、フランはヒョイヒョイと魚を掬い続けている。全部とり尽くす勢いだ。

「そ、そんなわけあるかっ！　どう見てもズルしてるだろ！」

「してないよ？　ズルしてたのはそっち」

「お嬢ちゃん。今なら許してやるぞ？　魚全部おいて消えな」

「やだけど？」

「小娘！　てめぇ！」

　おじさん、完全にチンピラモードだ。実はヤクザ者だったらしい。おじさんの怒鳴り声が聞こえたのか、後ろの建物から数人の男が現れる。

「おい！　この嬢ちゃんに世間の厳しさってもんを教えてやんな」

「すまんなぁ、お嬢ちゃん。うちも舐められるわけにはいかなくてなぁ。げへへへ」

　下卑た笑いを上げる男たち。だが、こいつらは気づいていないようだな。うちのフランが、嬉しそうに笑っていることに。魚すくいで溜めたイライラ分、ストレス解消用のサンドバッグになってくれ。自業自得なんだし、拒否は受け付けません！

「な、なに剣なんてかまえ――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ！」
